
【対談】言語聴覚士×管理栄養士「家で食べる・生きるをみていく」
さつきホームクリニックには、訪問リハビリテーションを行う言語聴覚士(以下ST)と、在宅訪問栄養管理を行う管理栄養士がいます。
当クリニックで訪問診療を受診されたり、訪問リハビリテーションを利用したりする患者さまは高齢の方が多く、摂食嚥下障害や低栄養など「食べること」に課題感を持たれているケースが少なくありません。
普段の暮らしの中で、強いては人が生きていく上で重要な「食」について、在宅医療の現場でどのようなアプローチが必要とされているのか? STと管理栄養士の二人にお聞きしました。
写真左から管理栄養士・伊藤真由美(いとうまゆみ)/言語聴覚士・増渕貴彩(ますぶちきさい)
目次
退院した後の暮らしを支えたい。さつきホームクリニックを選んだ理由
―在宅医療に興味を持ったきっかけは?
増渕(ST):言語聴覚士として9年目になります。回復期リハビリテーション病棟にいる間に、訪問リハビリテーションも兼務していました。
病院では長くても6カ月でリハビリテーションが終わってしまいますが、患者さまにとっては入院している期間より、家に帰ってからの生活の方が長い。生活の中で工夫したりSTとしてアドバイスしたりすることで、不自由なことがあっても楽しく生きていけるのではないかと思いました。
伊藤(栄養):私は、保育園や給食センターに勤めた後、脳神経外科病院で管理栄養士として患者さまの食事指導を行っていました。退院された後の食生活をみることができず、再入院された時などはもどかしく感じることもあり…。退院指導や生活に合わせた調理指導などがきちんとできたら、何か変わるんじゃないかと思いました。
退院後、家で食事をつくる人は誰なのか、買い物には誰が行くのかなど、患者さまをとりまく食環境から介入していきたいと考えていました。
―お二人とも入職して数カ月ですが、さつきホームクリニックで働いてみてどうですか?
増渕(ST):一言でまとめると、とても楽しいです‼ リハビリスタッフはもちろん医師や看護師など他職種との距離が近く、いつでも相談できるのでとても助かっています。たとえば「主治医の許可が必要だな」と思ったとき、さつきの場合は医師が近くにいるのですぐに相談できる、そんな環境です。
入職してすぐの頃から「この人の嚥下を見てほしい」と声をかけていただくことも多く、STとして、とてもやりがいを感じています。
伊藤(栄養):そうですね、他の職種の方とも相談がしやすい環境です。LINEWORKS(※コミュニケーションツール)を使って情報交換できるのも仕事がしやすいですね。
在宅訪問管理栄養士としての経験を積める場所が少ない中、さつきで在宅訪問管理栄養士として働きたくて入職しました。今後、在宅栄養専門管理栄養士の認定を受けたいとも考えているので、学会参加や書籍購入のサポートがあるのは、スキルアップするのに恵まれた環境だと思います。
訪問管理栄養の資料書籍
STって何をするの?→「首から上のリハビリです」
―在宅医療の現場でのSTの役割は?
増渕(ST):言語障害や聴覚障害、高次脳機能障害、摂食・嚥下障害などに関して、評価や必要に応じた訓練を行います。
理学療法士(PT)や作業療法士(OT)とくらべて職業イメージが湧きにくいので、患者さまやご家族などには、個人的には「首から上のリハビリをします」とご説明することが多いですね。
患者さまに高齢の方が多いさつきではとくに、「食べ物がうまく飲み込めない」「誤嚥する」など、摂食嚥下障害に対する需要がとても多いです。食べられない人が食べられるようになるといった機能向上だけでなく、今の能力で何が食べられるのか? 状態が低下していく過程でどうしていくのか? の評価が重要になります。
※イメージです
先生の往診に同行させていただく時は、その場でパッと嚥下評価をして「この人は食べられるのか食べられないのか」「何だったら食べられるのか」などをその場でお伝えすることがほとんどです。なので、アセスメント力は重要だと実感しました。「この患者さまは今の状態で経口摂取可能か不可能か」を即座に判断できることが必要かな…と。
患者さまへの直接的な関わり以外にも、ご家族さまに対して「危なくない食べ物」や「介助する際の姿勢や食べさせ方」などのアドバイスも行っています。
―摂食嚥下障害のリハビリテーションとは?
増渕(ST):食べ物や飲み物を使わない「間接嚥下訓練」、実際に食べ物や飲み物を使う「直接嚥下訓練」があります。
間接嚥下訓練は、頸部や口唇、舌などの口腔器官の運動やストレッチ、のどの奥を冷却した棒で擦り飲み込みを誘発する、などがあります。経口摂取が困難な方や経口摂取をしている方でも食前の準備運動として行うことも多いです。
直接嚥下訓練は、実際に患者さまに食べ物や飲み物を摂取していただきますが、誤嚥してしまう可能性もあるので、慎重にかつ段階的に進めていく必要があります。誤嚥を防ぐためにはどのような姿勢がいいか、どのような食形態がいいかなどを常に考えながら行っています。
居宅の方は、ご家族さまへの食事介助指導も行っています。リハビリというわけではないですが、口腔ケアもとても重要です。
在宅療養中は低栄養のリスクが高い
―在宅訪問管理栄養士の役割は?
伊藤(栄養):慢性疾患の食事指導や摂食嚥下障害に対する食事形態の調理指導など、食生活全般における食支援を行います。とくに低栄養に対する支援が多いですね。下痢などの症状から栄養指導に入っても、結局は低栄養に行きつくといった感じです。
在宅療養中の患者さまは、食事のご飯をおかゆにしたり食材を煮たりすることで、知らず知らずのうちに摂取カロリーが減っていることが少なくありません。食べられる分だけだと栄養が不足してしまうんです。
―訪問栄養指導を導入する流れ
伊藤(栄養):医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、リハビリなどの視点から、栄養介入が必要と判断されたら、医師に確認し、医師による在宅訪問栄養食事指導指示書に基づいて実施します。
管理栄養士が訪問する際に持っていく道具。どんなキッチン環境でも調理できるように準備してある
医師からは、疾患をベースにご家族さまの生活や患者さまご本人のご希望に合わせて、だったり、看護師からは「ご家族さまが食事に不安を抱えているからみてほしい」だったり。医療ソーシャルワーカーから新規の患者さまの相談が入ると、退院後すぐに介入することもできます。在宅療養中は、入院中と違い食生活のベースがないので、患者さまお一人おひとりの食環境の差が大きいなと感じます。
リハビリに関しても、患者さまがきちんと食べられているか、とか痩せてきているな、と感じる時に相談してもらえることが大切だと思います。エネルギーが足りないとリハビリが成り立たないので。
リハスタッフと協同して、リハ栄養にも取り組んでいきたいと思っています。
相談しあえる心強さ
―STと管理栄養士が一緒にみられるメリットは?
伊藤(栄養):食形態の栄養指導で、増渕さんに同行してもらいました。食形態の調理指導をした後、実際に患者さまが試食されている状況を評価してもらったり、アドバイスをいただいたりしました。
増渕(ST):ゼリーやトロミ付きの水分のみ、ご家族の介助で経口摂取されている方でしたね。伊藤さんは、ご家族さまが作ったスープを飲み込みやすい形状に調理する指導をされていて、私はそのスープを患者さまが飲み込めるかどうかをSTとして評価させていただきました。
食べるには飲み込みだけではなく栄養も必要です。STとして栄養素の知識が足りないところを補填していただけたり、嚥下の食形態について相談にのっていただけるのが心強いですね。
伊藤(栄養):そうですね。私も、栄養指導の際に、増渕さんがその場ですぐ評価してアドバイスをくれるので助かります。
たとえば、きざみ食がいいのが固形食がいいのか、といった微妙なラインの時とか…。
増渕(ST):いけなくはないけどどうかな、という時はありますよね。
伊藤(栄養):はい。きざみ食はむせてしまうかもしれない・固形食は窒息してしまうかもしれない状態で、「理想の食形態は何か」ということと合わせて、実際の暮らしの中で「その食形態を調理することができるか」ということも踏まえて判断する必要があるので…。
さまざまなことを考えた上でどの食形態がその方に合うのかを、増渕さんにSTとしてしっかりみてもらえるのがいいですね。
患者さまのより豊かな暮らしのために
―今後チャレンジしていきたいことは?
増渕(ST):在宅の摂食嚥下=さつき‼ のような体制が作れればと思っています。『さつき摂食嚥下チーム』的な。
さつきには伊藤さんのような管理栄養士や歯科衛生士もいるため、「食」というところでSTだけでは足りない部分も全職種で総合的に対応して、患者さまが最期まで「食べる」ことを楽しめる様な関わりをしていきたいです。
個人的には摂食嚥下領域の認定療法士に興味があるので、チャレンジしてみたいですね。
伊藤(栄養):在宅訪問管理栄養士の認知度を上げたいです!
食事は日常のことなので、問題があってもそれを「問題」と思っていない方もいます。でも、食事を変えることで生活の質が上がる方もいる。そういった方に訪問栄養をできたら、より豊かに暮らせるんじゃないかと思います。
そのためにも、幅広く食支援をしていきたいです。
2020年12月16日公開 文章・編集・撮影 広報 藤井弥恵