スタッフコラム「選択の自由」
病院と在宅のギャップ
「ちょっと聞いてください!」
訪問リハから帰ってきた後輩から急に声をかけられて、こんなことを言われました。
「部屋の中を自由に動いたり外出を楽しんだりできるようになるために、車椅子に乗る練習をしましょうって声掛けをしたんですけど、断られたんですよ…。今日はいいやって。病院では、退院するために有無を言わさず車椅子に乗ったり、歩く練習をどんどんやったりするのが当たり前だったので、なんかモヤモヤするんですよね…」
頸髄損傷の方に車椅子乗車を提案したら、断られたらしい。リハビリテーションの目標が、自分で車椅子操作できる! 外出したい! だったのに。
急性期と回復期の病院でしっかりリハビリテーションを学んできた後輩にとって、病院と在宅でのギャップを感じたとのこと。
病院では「治療してリハビリ頑張って、退院するぞ!」っていう目標がブレないじゃないですか?
ブレようがないんです。そこを目標にしないなら入院している意味がないわけで。
だから、退院のために医師が推奨する治療を受ける、理学療法士が推奨する訓練を受けることに対して、断られることがまずない。
目標達成のためにやったほうが良いことを提案して断られると、在宅医療の経験が短いスタッフが、「えっ! なんで!?」ってなるのは仕方がないかなと思うのです。
その選択を尊重する
そもそもなんで車椅子乗りたくなかったんですかね?
焦らずゆっくりのんびりやっていきたいから?
夜テレビを見て夜ふかししたから寝不足だったから?
自主トレを頑張りすぎて筋肉痛だったから?
好きなアイドルの熱愛ニュースが流れてきて落ち込んでいたから?
理由はなんだって良いかと。
退院という目標を達成して家に帰ってきたあとって、「自由」なんですよね。
どんな選択をするかは、本人の自由。
車椅子に乗る、乗らないも自由。
リハビリテーションをやる、やらないも自由。
本人の人生なので。
プロとして推奨することと、本人の選択の自由にギャップがあった時、すごくもどかしさを感じるのですが、その価値観を受け入れることが在宅医療に携わるプロとしての基本姿勢なのかなと思います。
とはいえ「もっとこれをやったほうが動けるようになるのに! 勿体無い!」と葛藤する日々。
でも本人の自由だよね。とはいえ勿体無い…。でも…と、ループする…笑
私が意識していることは、1つのことを押し付けずに選択肢をいくつか用意すること、プロとしての意見を添えて選択肢に強弱をつけること。
そして最後に選択するのは本人。その選択を尊重する。
あとでその選択が変わっても良い。またその選択を尊重する。
これが大切だと思っています。
「自由」を受け入れるために
私は急性期のある病院で7年間勤めた後、訪問リハの世界に飛び込み、さつきに入職してあっという間に3年半が経ちました。
はじめはギャップにかなり苦労しましたが、理学療法士として、1人の人間として柔軟になったなと感じます。多様な価値観を素直に受け入れられるようになりました。「いろんな人がいるからねー」が口癖になりました笑
「本人の自由」を心から受け入れられるようになったなと。
毎朝のカンファレンスで、月永先生が口酸っぱく伝え続けていることもあって、さつきのキャッチフレーズになっている「自由に生きる」とはなんぞや? が、だんだんと自分の中に落とし込めてきた感覚があります。
時間は必要です。日々考えながら葛藤して、現場を経験したからこそ成長できている。これからもプロとしてのスキルアップと、多様な価値観を受け入れられる柔軟さがもっと身につくように試行錯誤し続けることを忘れないようにしたいです。
「自由」を、本人と私たち医療従事者が心から楽しめるのが、在宅医療かもしれないですね。
文章 理学療法士 水沼史明